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Elämäプロジェクト

こんにちは。エラマプロジェクト代表、フィンランド生涯教育研究家の石原侑美です。突然ですがみなさんが好きな季節はいつですか?

フィンランドでは日照時間が少なくなる時期が長いため、夏はとても貴重な季節とされています。わたしが住んでいる飛騨高山も雪がたくさん降る地域ですので、冬と春・夏の頃を比べると活動しやすさがかなり違います。

エラマプロジェクトでは会員制コミュニティ「エラマの森」を運営していますが、4月末に飛騨高山でオフ会を開催しました。

新緑の季節にあらためて感じた、自然を享受できる気持ちよさとありがたさについて、今回は話していきたいと思います。

体も心も新緑の季節を満喫

エラマの森のオフ会は基本的にフリースタイルです。スケジュールは2白3日でしたが、来たいときに来て帰りたい時間に帰るのもOKといういつも自由度の高い内容にしています。メインの会場は「自然体験施設 太陽の家」で、こちらに宿泊できますし、ご自身の都合に合わせて別の場所で泊まるのも可能です。

何をするかも参加したメンバーで対話して決めたり、ご自身の心の赴くことをしたりと思い思いに過ごしていただける時間が多いです。

今回開催したオフ会は、前回に比べると参加人数が少なかったので、ちょっとした親戚の集まりのような雰囲気になりました。

人数が少なく車の台数に余裕があったこともあり、会場から15分くらいの場所にある温泉に行ったり、30分ほどのところにある公園にみんなで作ったお弁当を持ってピクニックに出かけたりしたんです。

公園のそばには川があって水音が聴こえる中でのピクニックができましたし、まだ桜が咲いていたのでお花見もできました。とても気持ちのいい場所なんですが、わたしたち以外は誰もいなかったのでエラマの森のメンバーだけでその空間をひとり占めという状態になっていました。

東京に住んでいた頃、わたしは虫が苦手だったのですが、飛騨高山に移住して数年が経ち、すっかり平気になっています。

東京から一家で参加していた子どもたちの虫が苦手そうな様子を見て、そんなことを思い出す瞬間もありました。

子どもたちは川遊びは初めてだったそうですが、透明度の高い川に足をつけてみたり、地元の男の子と仲良くなって一緒に遊んだりしていました。また、公園では裸足で芝生の絨毯を駆け巡ったりと子どもたちがのびのびと楽しんでいる姿が印象的でした。

ピクニックから帰ると14時か15時頃で、そこから全員がお昼寝をしたんです。時間もバラバラで30分程度の人もいれば1〜2時間の人もいて、最高は4時間近くの人も! 

「まだ寝てるの?大丈夫?」と心配になりつつも、心からリラックスしているんだなとうれしくもありました。

太陽の家に戻ってきてからは、テントサウナに入ったり焚き火をしたりただぼーっとしたりといった時間を過ごしました。庭に出ると草の匂いがとにかく気持ちよく、湿度も低かったので心地よく寝転がれることもあって、そこでも新緑の季節を体いっぱい感じられました。

食事の面でも、太陽の家の管理人さんが山菜を取ってきてくれて天ぷらにしてくれたものをみんなでいただく日がありました。めずらしい種類のものも味わえましたし、山菜が取れる時期は植物の生命力を感じる季節でもあります。

フィンランドには自然享受権というものがありますが、日本でもゼロではないと感じるのが山菜に関してです。採れるエリアやそこに入れる人は限定されるかもしれませんが、普段の生活でわたし自身もその恩恵を受けているのです。

自然や季節の変化に敏感になることで自分の心にも敏感になる

参加メンバーと過ごした時間を振り返ると、あえてすごく深い話をするでもなく、かと言って浅い話をするわけでもなく。みんながほどよく距離感を持ちながら楽しいことをやりながら、一人になりたいときは一人になれる時間もあったんです。

ある程度広くて、建物の中も外も木の香りや草の匂いに溢れている環境があると、常にON状態になる必要はなく、自然にリラックスした状態で過ごせるのではないかと思います。

生命力があるというのは、快活で声も大きくハイテンションであるということではないなと思ったんです。

けっこう穏やかでほどよく元気、ほどよくリラックス、そういうのが元気っていうことなんだろうなとこのとき感じました。

そのためには十分な広さと景色や香りといった「自然」がすごく大事だと思います。

特に新緑の季節は香りが高く、秋だとそういう香りはしません。また、冬だと飛騨高山やフィンランドは雪で覆われるのでさらに香りを感じることは難しい季節になってしまいます。

この新緑の季節は、風の気持ちよさと湿度の低さと緑の香る感じがすごく落ち着かせてくれるという体感がありました。

わたしは飛騨高山に移住してきてもうすぐ4年になりますが、自然の変化、季節や天候の変化にも敏感になりましたし、自分の心にも敏感になってきたという感覚があります。

エラマプロジェクトをやっていることで自分と向き合う習慣があるというのは前提として、季節の変化に敏感になるからこそ、自分が今このままいくと落ちそうだなと感じたときは気持ちに蓋をせず、山に入ってぼーっとしたりしています。

また、ウッドフォーラム飛騨に作ったエラマ図書館に行き、仕事じゃないと断りを入れてソファに座ってただぼーっとするということを積極的にするようになりました。また、それらが手軽にできるような環境に身を置いていることも大きいです。

二十四節気を知ったのも飛騨に来てからでした。飛騨は日本の真ん中なので、ここは二十四節気通りに季節が変わっていくんです。

その意味通りに季節が変わっていくのがすごくわかるので、数週間ごとに季節が変わることがより自分の心にも敏感になる要因なのかなと最近思います。

自然があればあるほど、周りに人がいなければいないほど自分に集中できると思うんです。冬だったら外に出て歩き回るというのが難しいので、すぐ外に出られる新緑の季節はそういった面でもいい時期ですよね。

都会で暮らしているから自然に触れるのが難しいと感じる場合でも、少しでも自然があるところに出かけてみるだけでも十分だと思います。

エラマプロジェクトで体験できること

オフ会以外にも飛騨高山でイベントを実施することがあります。講座やイベントが決まった際はホームページでお知らせしますので気になった方はチェックしてみてください。

また、エラマプロジェクトではフィンランド現地ツアーも開催しています。今年は9月と10

月に予定しており、ヘルシンキやタンペレでサステイナブルな社会を学ぶプログラムや北欧のシリコンバレー、オウルで働き方やウェルビーイングを学ぶプログラムを準備しています。

詳細をご覧になって少しでも興味がわいた方はぜひお問合せください!

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)

Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)

こんにちは、いけかよです。

去る2024年3月20日、3泊4日のスペシャルなツアーが、岐阜県飛騨高山で開催されました。

これまで、フィンランドで2回ツアーを実施してきたエラマプロジェクト。今回は、飛騨高山に生活拠点をおく代表の石原侑美が、自ら暮らし、さまざまなものを見て聴いて感じているその地域を舞台にしたスペシャルなプログラムを作り上げました。

その名も「地域(ローカル)でウェルビーイングに暮らす体験ツアー in 岐阜・飛騨高山」

さまざまな体験を通じて「学び」をお届けしているエラマプロジェクトですが、今回のツアーはエラマプロジェクト7年の歴史のなかでもひとつのマイルストーンともいうべき特別なものとなりました。

もちろん、すべての経験がスペシャルで唯一無二ですが、どうやら代表の侑美さん的には今回の経験をしっかりじっくり記録として残しておきたいという強い衝動があったようなのです。

ということで、本メディア「よむエラマ」の編集長のわたし、いけかよと侑美さんとの対話を、臨場感そのままにお届けしたいと思います。

人生の分岐点に立つ人が集まった

いけかよ

今回のツアーのきっかけは?

ゆみ

高山市の地域課題解決プランのコンテストがあるからそれに応募してみませんかっていわれて、提案したのがこのツアーでした。内容は言ってしまえば「移住体験ツアー」なんですが、地方創生は移住だけじゃなくて、いかに関係人口を増やすかが大事だから、それを組み込んだツアーということで、高山市から奨励賞をいただいたので実施に至ったという感じ。

でも、もっと個人的なところで言うと、私がフィンランドに行って自然の素晴らしさを知った、そして高山にも移住して4年経った。そこで体験してきたことを、ごく一部ではあるけど4日間にぎゅっと凝縮して体感してもらうことで、私の地元愛を呼び起こすことにもなるだろうし、参加者さんが「自分もこういうことをやりたい!」って思ってもらえるようなツアーにできたらという思いもあったんです。

いけかよ

なるほど。実際やってみての手応えはどんな感じでした?

ゆみ

やっぱりやる直前まで「これでいいんだろうか」とか「人集まるかな」とか「ツアーが目新しすぎてみんなイメージ湧かないかな?」とかいろんな不安がありました。でも「ウェルビーイング」という言葉はいま注目されてるからいけるんじゃないかという一縷の望みも持ちながら、できる限りのことをやって。

そして、参加者は女性6名。20代から50代まで幅広くて、東京、三重、大阪、富山、愛媛、あとは岐阜からと、いろんな地域から来てくれたんです。

結果、やってみて、フィンランドまで行かなくても国内で、飛騨高山でこれだけの素晴らしいものができるんだっていう確信を得られました。それは直前まで不安だったから自分なりにベストを尽くしたからこそ。

そして参加者さんから返ってきた反応がほんとうにみんな喜びに満ち溢れていて…!ツアーの最後にはやっぱり半分以上の人が自分のために浄化の涙を流すんですよね。

それは自分の人生に向き合えているということと、やっぱり人との出会いがあったから。飛騨高山で活躍するいろんなキーパーソンに出会ってもらったんですが、その人たちも性別も年代もバックグラウンドもさまざまで、その出会いのなかで参加者さんたちはどんどん自分の内側に目を向けていったんです。

こういう「内省」ができるプログラムを、国内でもできるんだっていう強い確信を得られました。

いけかよ

そうなんですね…!じゃあ、今回のツアーの目的としては「飛騨高山に移住します!」って言ってもらうこと?

ゆみ

を、やめたんです。そういうプレッシャーのもとでやるのは違うなと思った。だから目的は「地方で豊かに暮らすことを考える」とか、「地方都市においてウェルビーングな社会作りを考える」とか、移住までとはいかないけど地方を拠点に活動したいと思ってもらえるようなものにしたんです。

いけかよ

じゃあ本当に関係人口っていうのがキーになるんですね。

ゆみ

そう。高山市さんも「関係人口を増やしたい」ってすごく言っていたし。

いけかよ

参加者さんたちはどんな思いで参加してくれてたんでしょう?

ゆみ

それがいろいろでめっちゃ面白くて!

ひとりはもちろん「ウェルビーイング」って言葉に反応されて、フィンランドの専門家からそれを学びたいっていう人。

もうひとりはフォルケホイスコーレ(19世紀にデンマークの農村を中心に発達した民衆の民衆による民衆のための成人教育機関。「人生のための学校」などと表現されることもあり、その価値やあり方が近年注目を集めている)的なプログラムを日本のいろんなところで参加している人。このプログラムはフォルケホイスコーレ的なものだと認識して来たそう。

他にも「以前飛騨高山に来た時にとてもいい場所だと思って、インスタを見てたらこのツアーを見つけたから、内容はよくわかりませんけれども申し込みました」っていう方もいたり(笑)。

いけかよ

いいですね。フットワーク軽い!

ゆみ

そうそう(笑)。そういういろんな観点のいろんな層の人が来たっていう感じでした。

でも共通項があるとしたら、やっぱり今が人生の分岐点だとご自身の中で思われてる方が来たような感じではあったかなと思います。

いけかよ

そこ、フィンランドツアーの参加者さんと似てますね。

ゆみ

そう!そこがすごく面白いなと思った。

スペシャルな「地産地消」

いけかよ

それで今回のハイライトは?

ゆみ

それ選ぶの難しいですよね…。

まず、初日に雪がすっごい降って、私たちが泊まった太陽の家なんて50cm積もったんです。飛騨の人からしても3月にこれだけ降るのは珍しいと。「大丈夫かな、予定変更しなきゃいけないかな」って思ったんだけどもうみんな喜んで!他県の人は雪なんか見ることないからみんな舞い上がっちゃって、喜びに満ちてたのは雪があったからっていうのはあると思うんです。

だからもういきなりハイライト(笑)。

雪が降るだけで荘厳な空気に。同じ日本とは思えない異国感

いけかよ

そうなんですね!もういきなり(笑)

ゆみ

そう!太陽の家は、やっぱりみんな最初入った瞬間「うわー!」ってなりましたもんね。

いけかよ

あそこは場の持つ力がすごいですよね。

ここが「飛騨にゅうかわ太陽の家」。なんともいえない不思議な空気に包まれている、エラマプロジェクト御用達の施設。

ゆみ

そう!だから今回プログラムを多くを太陽の家でやれたことも大きかった。自然や木の匂いにずっと触れ続けながらやれたから。とにかく外でみんな雪で遊びまくって、めっちゃ楽しそうっていうのも良かったんですよね。

あとは、ごはんにこだわったこと。

もう一つのこのツアーのテーマが「地産地消」だったから、地産地消のものを食べようと。

この、食がめっちゃみなさん喜んでいただいたところで。

いけかよ

食はすごく大事!!普通の旅でも食ってすごい重要度高いですもんね。その土地でしか食べられへんもんって絶対食べたいし。

ゆみ

ですよね。

プログラムの中で、ワークショップが大事なことはわかってるけど、でもやっぱり喜びを味わいたいわけですよ。ワークショップがあるから食の喜びがあるし、食の喜びがあるからワークショップの喜びもわかってくるっていうことで、こだわったんですよね。

地元ならではのジビエ料理がもてなされました。これは高山で捕れた鹿肉。愛媛からの参加者は「こんなおいしい鹿肉食べたことない!」と感動していたそう!

いけかよ

うんうん。しかも作り手からじっくり話が聞けるっていうのもいいですよね。

ゆみ

そう。それぞれでクリエイティブに飛騨の地産地消をやっている人たちにお願いしました。その人たちに、自分の人生の話をしてもらって、そのひとりがEarth to Tableの河野美紗ちゃん。

フリーランスシェフの河野美紗さん。オランダのアムステルダムで地元レストランと都市農園&食廃棄プロジェクトに5年ほど携わったのち、現在は飛騨地域で、「五感に響く食体験」と「地域コミュニティ」をテーマに、店舗をもたずに料理と食企画を行っている

ゆみ

なんで飛騨でEarth to Tableをやってるか、オランダで何を見てきたのか。それを踏まえて食と農のコミュニティを飛騨でどうやって実現してるかという話をしてくれた後に、その美紗ちゃんが作った料理を食べるという。

しかもそれがおいしいっていう単純な味覚だけじゃなくて、聴覚や視覚でも、そして美紗ちゃんが体験した飛騨のこともオランダでのことも疑似体験した上で食べてるような感じ。だからおいしいもの以上の咀嚼があって、お腹いっぱいになったっていう感じでしたね。

こちらが美紗さんによるスペシャルディナー!

ゆみ

そして、我が家、石原家にも来てもらって、お義父さんお義母さんもいっしょに宴会して。カブを採ってきてそれをオーブンで焼いてただ食べるとか。

いけかよ

めっちゃいい!!もうお腹すくー!

ゆみ

ははは!でしょ?お腹空くでしょ?そうなんですよ(笑)

石原家にて。素朴だけどすべてに心がこもっている、どんなミシュランよりも尊い食卓

こんなカブが石原家の畑では採れるんです

もちろん食以外のプログラムも。飛騨高山在住の花のプロ、alp_gardenさんによるお花のワークショップ

地元の野生の草花を使ってのフラワーオブジェづくり!これもひとつの地産地消

エラマプロジェクトオリジナルククサを使ってそれぞれ思い思いに作りました!きれい!

これが本当にやりたかったこと

ゆみ

参加者の1人は石原家の宴会のときにお義父さんと「私はずっと長女としてきょうだいとかお父さんお母さんの面倒を見て…」っていろいろ話されてて。そのときにお義父さんが「もうあなたの道に行ったらいいんだよ」って言うんです。それがね、彼女にとっては、他人からなんでもない温かい言葉を言われたからこそ、すごく心にぐっときたらしくて。

でも、温かいからこそ、全てのプログラムが、食べ物も建物も会う人も含めて全てが素晴らしいすごく非現実な空間にいるからこそ、自分のネガティブなところが出てくる瞬間が本当に辛かったと…。

これは他にも言ってる人いたんですよね。

いけかよ

そうなんですね…。

ゆみ

前に飛騨高山でリトリートをやった時もそういうこと言われた人がいて。

リトリートでも今回のプログラムでも自分の人生を振り返ってもらうワークはやるんですが、やっぱりそれをしてるとトラウマが出てくる人ももちろんいたりするんです。それに、トラウマを克服してしてるつもりだったけど、あまりにも美しい、いいものを食べるから、ショック療法のリバウンドじゃないけどそういう感覚に近いものが出てくるような…。

いけかよ

たとえば普段、ジャンクフードばっかり食べてて、こんな美しい食べ物があるのに自分はなにやってんねやろみたいな気持ちになる感じでしょうか?

ゆみ

近いかもしれない。ジャンクフードばっかり食べてて体にいい野菜を食べると、逆に体にぶつぶつができるみたいな、そういう感じ。

いけかよ

好転反応的な?

ゆみ

ああそうそう!まさに好転反応。しっくりくる言葉だと思います。

いけかよ

気持ちの好転反応がいっぱいあったわけですね。

ゆみ

ありましたね。みなさんそれぞれのレベルでそれぞれにあったみたいで。

いけかよ

なんかちょっとわかるような気がする。聞いてて胸が痛むなあ。

ゆみ

そう。わかる人はすごくグッとくると思う。

それが一番わかったのが、ツアー最終日に太陽の家で最後の振り返りをした時に、やっぱりみんなそれ(好転反応)が「あったんだー!」っていう涙があふれて。逆に「やりたいこと見つかったんだー!」っていう喜びの涙の人もいたし。それぞれのその振り返りがそれぞれで作用し合ってましたね。

ツアーが終わって高山駅で解散した後、まだ名残り惜しい、話し足りない、もっと語りたいっていうので、その後1人以外はみんなそこで一緒におそば食べて(笑)。

他にもツアー終わってから改めて飛騨にもう一回来てくれた人もいてね。

でも、これまでも飛騨でリトリートを何度かやってきたけど、今回違うのは本当に関係人口になりそうな人たちがいるっていうこと。これからどんどん具体的なつながりが増えていきそうなんです。今回つながりができて、そこからまたどんどん別の関係人口が生まれそうな要素がある。

だから、今回のプログラムで自分の人生を共有するからこそ、思いっきり自分の「やりたい」っていう気持ちを信頼して出してもらえてるんだなっていうのをすごく感じます。関係性が深く強くなるからこそ、長く関係性が続くような感覚になるというか。

それぞれ自分に向き合う参加者たち

いけかよ

ゆみさんの作ってるプログラムって、「ツアー」だけどでもなんかちょっとレイヤーが違いますよね。

ゆみ

そうですね、旅なんだけど学びの要素がしっかりある。それは深い対話を自分の中でやるようなプログラムですね。

いけかよ

そうだと思います。適切な言葉を見つけるのがすごく難しいけど、トリートメントな感じがするんですよね。そういう要素がすごく強い。

ゆみ

だからこそ、参加する人は怖い部分もあるのかもしれないですね。自分がどうなっちゃうのかな?って。

美しいものに触れて、雪だったのもあってよけい非現実感が増してて。それもあって今回は余計にみなさん内省モードになれたのも確か。雪があることですごく深い対話が生まれたのは間違いないかなって思います。

なにより今回は、本当に来たいと思って来てくださった人しか来てない。「どんな感じやろ?」じゃなくて「行くんだ!」っていう決意を持って来てくださった方ばっかりだった。エラマプロジェクトで、こんな満足度の高いプログラムができるんだっていう自信になったツアーでしたよ。

いけかよ

そうなんですね。フィンランドよりも国内ツアーの方が参加者はやっぱり勇気がいるのかもしれないですね。

ゆみ

そうですね。海外行く方が皆さんイメージできるし、いっぱいお金貯めていくぞって気になるんだけど、国内って行きやすいって思うからこそ、ハードルは高いんですよね。

いけかよ

海外だったら、なんかとりあえず飛行機乗って行くだけで、もう達成感あるでしょ?

でも国内って、やっぱり自分がある程度のお金とか時間とか、ペイしたものがあるんだったらなんらかのリターンはほしいって思うから、なんにも面白くなかったなんて絶対いやですもんね。否が応でも何かを得て帰ろうと思ったら、国内の方が自分の感性をもっと研ぎ澄ませないといけないし、特にゆみさんが作るこういうプログラムではすごく自分と向き合わされると思うし、心の柔らかい部分もすごい刺激されるし。それは結構タフな経験だと思うわけですよ。

ゆみ

そうですね、いい意味でも悪い意味でも。悪い意味っていうのはちょっとネガティブな感情に陥ることもあるかも、っていうところだけですけどね。

いけかよ

そう。でもそれは多分人生においては避けて通れないとこですよね。そういう意味でも、ゆみさんのつくるプログラムはトリートメントっぽいんですよね。

ゆみ

トリートメント。リトリートではなくてトリートメントね(笑)。

いけかよ

言葉遊びみたいだけど!(笑)

でも、トリートメントもデトックスするでしょ?コリをとったり汗を出したりとか。ケアをして悪いものが出るからすっきりするわけだし。ってなると、悪いものがどこにあるのかわからないと出せないし。悪いもの出さないと気持ちよくなれないし。ってなったらやっぱりトリートメントの要素が強い。それが自分の中にあると思うからトリートメントしたいわけでしょ?

ゆみ

ああ、そうだと思う!それはあるのかもしれないですね。

ああ、だから、これが本当にエラマプロジェクトでやりたかったこと。まさにこのツアー!

人生も見つめてるけど自分の次のアクションも、ちょっと「やりたいな」って気が起こってるような状態。これを日本でやれた!

いけかよ

うんうんうん。だから、2Dの人が3Dになる瞬間に立ち合うみたいな。

ゆみ

あーー!そう!そういうことです!

いけかよ

それがいわゆる分岐点なわけですよね、人生の。

ゆみ

で、思ってるだけじゃなくて行動するっていうのが大事ですよね。2Dから3Dの行動。

これを継続的にやっていきたい。私の拠点が高山にあるから高山でやってるけど、拠点になる方がいらっしゃればどこでも。軽やに、いろんなとこでやれるっていうふうになれるといいなって思います。

いけかよ

そうですよね。それぞれの土着の人がそれぞれの土地に愛情を持って。

ゆみ

あ、そう!愛情を持って、が大事!地域に対する愛情があればできる。

いけかよ

素晴らしくない土地なんかどこにもなくて、全ての土地が素晴らしいわけですもんね。

あたしも初めてフィンランドに行った時に、日本のことすごい考えてた。

今回のツアーの参加者の人が「自分の地元のことを知りたくなった」って仰ってたって言ってたけど、それと同じだなって。それぞれの土地を比較する意識もあったりはするけど、高山もフィンランドもすでに地域ブランドがありますよね。何もかもが美しすぎて圧倒されるけど、なんか、それだけで終わりたくない自分もいるんです。フィンランドが素晴らしくて日本が駄目っていうのは違うはず!みたいな。

だから、やっぱり幸せと不幸せみたいなこともそうなんですが、やっぱり人間って比較で相対的にしか物事をジャッジできないでしょ?そのものだけでも十分美しいんだけど、これがいかに美しいかっていうのをわかろうと思ったら、比較する対象がないとわからなかったりする。多分こういうふうに場所を変えることで、自分の土地と高山の比較で地元の素晴らしさをわかっていくんだろうなって。

ゆみ

ああ、そうですね。それはそういう指標になるような場所を訪れることによって、ああ、ここがいいなって、じわじわと来る感覚になるんでしょうね。

いけかよ

だと思います。あと自分自身の心の中の部分でも、来る前と来てからの心の変化が比較になりますよね。

ゆみ

そうですね。

いけかよ

それでいろんなものがあふれてきた人もいたんだろうなと思います。だから、自分の中の汚い部分が辛かったみたいなとこも、多分そこだと思うんですよね。

ゆみ

うんうんうん。それはあると思います。そう、だから、これがエラマでやりたかったこと!1つの完成って感覚ですね、これは。

焚き火を焚く仲間をつくりたい

いけかよ

ゆみさん的には、このプログラムで参加者さんたちにどんなものを持ち帰ってもらいたかったんでしょう?

ゆみ

そうですね…「持ち帰ってもらいたい」があるとすれば、仲間得た!みたいな感覚かな。

今回は、自分が普段いるところでモヤモヤしてる人たちが来たと思うんです。

例えば、飛騨とはまた別の田舎で暮らしてるけど、やっぱり地元では自分のやりたいことは絶対に広がらないっていうモヤモヤ感とか。

自分はこれを頑張ってやってきてるけど、本当にいいのかなとか。

そんなモヤモヤ感を持ってきた時に「あ、この場にいる人たちだとなんかこのモヤモヤが共有できる」って思えるような…。本当にずっと日本社会とか政治の話とかしてましたもんね(笑)。

でも、それは文句じゃなくて「モヤモヤを置く」っていう感じでした。私もモヤモヤしてるけどあの人もモヤモヤしてるんだなってただ出し合うだけ。

でも、集まればちょっとは光もあるかもしれないっていう希望というか、そういうものが私が持ち帰ってもらいたかったことかなって思います。

で、私がやりたかったことは、そういう仲間がほしかったんですよね、多分。飛騨高山でやる人ももちろんそうだけど、日本中で、それこそ「地域で暮らすウェルビーイングな暮らし体験ツアー」みたいなものを、それぞれの地域でやってもらえるような仲間がほしかったんだろうなって思う。

いけかよ

なるほど。「フィンランド教育を全部学ぶコース」やった時も仲間がほしかったって気づいたって言ってましたもんね。

ゆみ

そうですね。なんかやっぱり仲間ほしいんやな、私。

ゆみ&いけかよ

あはははは!(笑)

ゆみ

でもそれが社員とか主従関係とは違う。本当に横の繋がりで仲間がほしいというか…。多分それがすごく強い想いだとは思います。

いけかよ

なるほど。仲間を集めて侑美さんが作りたい理想の世界っていうのはどういう世界なんでしょうね?

ゆみ

そうですね…。それこそ、絵的に言うと日本列島の真ん中の飛騨高山に焚き火が上がってて、富山、大阪、和歌山、名古屋、北海道とかでも焚き火してて。オンラインでもいいし、リアルでもいい。みんな焚き火囲んでゆるっと、お酒とかコーヒーとか飲みながら語れてる世界でありたい。それを実現したいなっていう、本当にそれだけ。

それが別に24時間じゃなくても、そういうふうな瞬間があったら、いつもいがみ合ってるかもしれないけど焚き火の前だったら仲良くなれるみたいな。

いけかよ

休戦する感じですね。

ゆみ

あ、そうそう!休戦もできる。そういう焚き火を囲むみたいな世界になるといいなって。一瞬でもいいから。定期的にそういうことできる世界があるといいなっていう感じ

いけかよ

なるほど、焚き火。焚き火をすること自体はすごくシンプルなことですよね。でも「いい焚き火」をしようと思ったら下準備とかすごい大変ですよね。

ゆみ

そうそう。前提を共有するとか共通言語を持つとかね。

いけかよ

価値観も違っていいけどぶつからないように受け入れる体制がいるし。

そしてまず平和を愛している人たちじゃないとダメだろうし

ゆみ

ほんとそうですね。

いけかよ

そういう文化作りをしてるんですよね、エラマプロジェクトは。

ゆみ

Exactly.そういうことでございます。

(対談ここまで)

いかがでしたか?

今回のツアーは、侑美さんご本人にとっても、エラマプロジェクトにとっても、特別なものだったのだなということが少しでもおわかりいただけたのではないでしょうか。

同時に、つねに試行錯誤と模索を繰り返して進歩しているエラマプロジェクトの真に迫る様子も感じていただけるととても嬉しいです。

もし、わたしたちに共感していただける方がいらしたら、いつでも遊びに来てください。そしてあなたといつか焚き火を囲める日がくれば、こんなにうれしいことはありません。

これからのエラマプロジェクトにも乞うご期待、なのです。

では、また!

Text by いけかよ(よむエラマ編集長/エラマプロジェクトCPO)

こんにちは。エラマプロジェクト代表、フィンランド生涯教育研究家・石原侑美です。2024年の年明け早々に「フィンランドの教育を全部学ぶコース」を開催しました。7年間の研究内容を参加者のみなさんに共有し、講座を終えたわたしが感じたことをあらためて振り返ってみようと思います。

このコースのゴールとは

講座は1月の毎週日曜日の午前中に計4回に渡りオンラインで開催しました。このコースの最大の特徴は、最終的に課題としてフィンランドの先生やコーディネーターのように参加者自身が授業、カリキュラムやプログラムを作って提出するというものでした。

第1回目ではフィンランドの教育について基本的な内容をお伝えし、日本とは違うフィンランドにおける「教育」の定義を体感していただくワークもおこないました。

第2回目は「教育メソッド」、第3回目は「キャリア教育と生涯教育」、第4回目は「教育・教員の学びと評価方法」をテーマにお話しました。

今回の分野は日本語に訳されているものがあまりありません。あったとしても、現場で実践できるレベルのものになると学術的すぎて日本語で学ぶのは困難でした。そこで、例えば第3回目ではPhenomen Based Learning(教科横断型の事象ベース学習のこと。以下、PhBL)の授業をしっかり体験していただきました。

参加者にとってはそれがどんなものかはっきり分からないと思ったので、子どもたちが受ける授業を実際に受けてもらったんですね。

体感してもらったことで腑に落ちる感覚があったかと思います。

参加者は、学校の先生、フリースクールを運営されている方、子どもたち向けの自然体験プログラムを作っている方といった教育的サービスに関わっている人や、習い事のお教室を運営されている方、講座を作るお仕事に携わっている方など、各地からお申し込みをいただきました。

このコースで絶対にお伝えしたかった内容が、3本軸となるPedagogy(ペダゴジー)、PhBL、アントレプレナーシップ教育についてです。

昨年開催した単発の対面講座でもPedagogyについて触れる機会はありましたが、そのときよりもさらに具体的にお伝えしました。また、学術的な内容をわたしなりに編集して授業を作るためのチェックリストを作成し、みなさんに共有しました。

このコースの内容は難易度が高かったと思うのですが、誰もドロップアウトせずに学んでいただけて、学ぶ体力がある人がすごく多かったのが印象的でした。

授業を作るために必要な考え方、基本的なことはお渡しできたかなと思います。

Pedagogy、PhBL、アントレプレナーシップ教育についてご興味が湧いた方は、今後も教育をテーマに単発の入門講座を開催予定ですのでよろしければご参加ください。

※東京:https://elama.be/workshop-event/tokyo202404_education/

※大阪:https://elama.be/workshop-event/osaka202404_education/

フィンランドの教育を日本に導入するのは難しい?

参加者の多くは、現状の日本の教育に対してかなり疑問を持っていらっしゃいました。教育サービスなどのお仕事に直接従事されていない方も問題意識を持っていて、「こういう授業なら受けたかった」といった感想もありました。

現状の教育について疑問を持っているからこそ「こういった内容や方法がいいのでは」とそれぞれお考えになっていたようです。そして今回フィンランドで実践されていることを知り、体験したことで、「答え合わせができた」「励ましをもらった」と話されている方が多かったです。

ご自身が考えていたものとまったく違うという印象は持たれなかったのです。

最後の課題提出については、みなさん現場が違うため内容はもちろん異なるものになりましたが、第1回目に共有したチェックリストに沿ってしっかり授業プランを考えていただきました。またすでに実践されている内容をリストを元にブラッシュアップされている方もいました。

フィンランドの教育が良いと言われるのは、自分で考える力を育む、周りと協力しながらやっていける力を育んでいくといったことを、先駆者的にやっていたからだと思うんです。フィンランドではすごく特別な教育をしているわけではないというのが大事な点なんですよね。

おそらく日本の教育現場でも、これがPedagogyだとかこれがアントレプレナーシップ教育であるとか意識はされていないけれど実際やっていた、みたいなことが実は多かったりするのではないかと思います。

フィンランドの教育を特別視するのではなく、みなさんが望む理想の教育や試行錯誤しながら実践されているものについて答え合わせをするような感覚でフィンランドの教育と向き合っていただくのがよいのではと考えています。

福祉制度が違うから、国が違うからを理由にできないものではなく、やろうと思えばできるんですよね。もちろん制度のせいでやりにくさ、やり易さが出てくるのは間違いないのですが、根本的なところはそんなに変わらないと思うのです。

学ぶ習慣が大切

教育現場におけるより良い実践のために国の制度を変えていくことは必要ですし、そのための働きかけも大事だと思うのですが、わたしたち自身、大人がまず、学びって楽しいなと体感しないと何も変わらない気がします。同時に、学ぶ習慣をつけることがすごく大切だと感じています。

学びというのは図書館に行くことだけではないですし、資格勉強をすることだけでもありません。単純に、今日1日を振り返って感じたことや気づいたことを日記に書くのも十分学びですし、それはPedagogyの定義の中にもあります。「振り返り」も学びのひとつなのです。

もっと軽やかに学びを楽しむのが習慣になるといいなと思います。そして、エラマプロジェクトをやっている理由、フィンランドの教育についてお話をしている理由もそれなのです。

教育の内容はアメリカの分野もありますしヨーロッパの分野もあるのですが、それらは意外と日本語に訳されているものは多くありません。

特にフィンランドのものに関しては本格的な内容のもので日本語版はそんなに多くないんです。

フィンランド教育を研究していく中で、わたしが通訳者となり、今後はさらに言語面だけでなく日本の現場に当てはめるとどうなるかというアイデアを出しやすいような形でお伝えしていくことをやっていきたいと考えています。

それは先生だけではなくて親御さんが立ち上げるサークルでもいいですし、リタイアされた方たちが始めるフリースクール的なものでも、シニア向けのコミュニティでも当てはまります。そういう学びの場やコミュニティをどう運営していくのかにも関係があると思っています。

学びそのものは、学校の中だけで完結しなくなってきていますよね。学校外の人や企業と連携するとか、地元の人に関わってもらうなど、そのコーディネート力もこれからすごく大事になってきます。ですので、みなさんがご自身の活動に落とし込めるように事例や文脈を紹介していきたいです。

今回のコースを終えてみて「学び」の可能性をますます感じました。学びに対するポテンシャルやモチベーションが高い人が多かったというのもあるかもしれませんが、豊かに自分の人生を変えられるのは学びがきっかけになることが多く、自分の人生を描くには学びがベースになるのです。

学んでいるとき、学びを作っているときが大好きだなとあらためて感じました。

このコースを開催した理由も、「仲間が欲しい」というのがどこかにあったんですよね。「学びの場を作っていきたいと思っている、学びの内容もフィンランドの教育で実践されていることをやりたいと思っている人たちと仲間になりたい」。そういう思いがあったんです。

それは直接エラマプロジェクトに関わるのではなくても、つながりを持つという意味でも「仲間」が欲しかったんです。これからもそういう仲間とつながるために、コースをブラッシュアップさせながら続けたいなと思っています。

フィンランドで学びと対話を深める

最後に、参加者の感想も一部ですがご紹介しておきます。

満足度が高かった理由として、

“現時点で他の講座や文献では知り得ないフィンランド教育の手法や考え方を学ぶことができたため。また講座の内容がとてもわかりやすく興味深いものだった”

“私が「教育」に対して思っていた偏見が、意見の一つに変わり、私の中でもっと柔軟に考えていいものという選択肢が生まれたため”

といった感想を記してくださった方もいました。

また、フィンランドの教育では自己評価も採用しており、一方的な評価に偏らないシステムを特に印象に残った点として挙げられている方もいらっしゃいました。フィンランドでも評価方法に関する議論は止んでおらず、参加者のみなさんにも対話していただきました。た。

今回開催したコースは「エラマの学校」のプログラムのひとつです。いつでも自由に気になる学びに参加していただけますので、その他の情報につきましてはこちらからご確認ください。

今年は、フィンランドツアーを3本予定しており、今月末から説明会を実施します。

実際に現地に足を運んでみたいと考えたことがある方は、2024年フィンランド現地スタディプログラムの詳細をぜひご覧ください!

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)

こんにちは。エラマプロジェクト代表、フィンランド生涯教育研究家・石原侑美です。

今日は冬至ですね。ご存知のように北半球では1年でいちばん昼が短く、夜が長くなる日です。

今年も調査研究のため、8月初旬から10月初旬の約2ヶ月間フィンランドに滞在しました。

冬になる前の時期でしたが、フィンランド北部の街に滞在したときは日の短さに気分が落ち込みぎみになりました。そんな経験も踏まえ、今回はフィンランドの暗くて長い冬をテーマにお話ししていきますね。

冬の準備は夏から始まっている!

日本では日焼けや紫外線を気にする方が多いと思いますが、フィンランドをはじめヨーロッパ全体では夏に上半身裸で外に出て日光浴をしている人が多いイメージはありませんか?

冬が近づくにつれ太陽の出ている時間がどんどん短くなるので、日差しを浴びられるときに浴びておこうという感覚なんですよね。ただただ肌を焼いているのではなく、冬の準備でもあるのです。

太陽の光を浴びるとセロトニンという物質が作られ体内時計が調整されますが、フィンランドの冬は日照時間が少なくなるためこのセロトニンが不足します。

そこでライトセラピーなど光を意識的に浴びてうつを抑制することを心がけている人が多いです。

また、マリメッコなどのフィンランドのテキスタイルは柄が大きいのが特徴ですが、家の中でも気分を明るくするためでもあります。

セロトニンの分泌を促進するビタミンDは食べ物からだけでは不足するため、サプリメントの摂取をフィンランド政府が推奨しています。

気晴らしできるものが少ないフィンランドでは、以前はお酒に逃げる人が多く、アルコール中毒者が増えたり、うつ病患者が増えて自殺率が高くなったりというのを繰り返してきました。そういった状況を避けたい考えが国をあげてのサプリメント推奨につながっているのです。

日本はフィンランドに比べると日照時間が長いので気づきにくいですが、もし鬱々とした感情を抱えている場合は、光が足りない可能性がじゅうぶんに考えられます。

昼の12時ですでに夕暮れ。北極圏の街・イバロでの経験

9月下旬にイバロという街を訪れました。地図を見ていただくと分かるようにフィンランドの北部で、北極圏の中に位置します。

イバロは冬至の前後1ヶ月はまったく日が昇りません。南にあるヘルシンキの冬至の日の日照時間は6時間弱ですがイバロまで行くと0分です。

9月下旬のイバロがどうだったかというと、お昼の12時からもう夕方のようなんです。冬の暗さにはまだまだという時期でも、毎日ほとんどの時間帯が夕方と夜という時間を過ごしていると些細なことですごく落ち込むことが多かったです。わたしだけかなと思っていたらパートナーも同じような状態でした。

日本で生活していると少し気分が落ちてしまったときには美味しいものを食べて気分転換をしたり、気晴らしにお気に入りのカフェに行ってみたりという方法もあるかと思いますが、イバロではそれができる環境ではありませんでした。

例えば日本で安く買える野菜もフィンランドでは600円〜800円(2023年9月時点)くらいするのでその点でも手軽に何かできるというわけではありません。

また、もちろんスマホを持っているので動画など見られますが、見ても全然気が晴れないのです。

イバロでの日々はじわじわとくるつらさを感じました。気分が晴れないと前向きに行動できないですし、そもそも体も動かしづらくなる感覚もありました。

季節性うつ病は、気分がその日の天気(光の時間と量)に左右されるものだそうです。そこで15時くらいに仕事を終わらせて、小高い丘にあるトレイルコースを歩いて気分を落ち着かせるという生活に切り替えてみることにしました。

フィンランドには日本のように高い山がありません。そこで、登山ほどキツくもないけど、散歩ほどラクでもないという、程よく体を使えるトレイルコースを歩きました。

大自然のエネルギーを全身で受けながら歩くと、多少気分が晴れるような気が。でも、太陽は夕方くらいの低さで、天気もスカッと晴れる日が少ない。ちょっとでも体を動かしていないと、狂ってしまいそうな気分でした。

この習慣を取り入れなければ、季節性うつの症状はもっとひどくなっていたのではないかと思います。

結果的に、イバロでの生活は予想以上に堪えたというのが正直な感想です。

逆に日本の恵まれている環境を実感することにもなりました。

フィンランド版大和魂「SISU」と幸福度の高さ

フィンランドには「SISU」という言葉があります。単純には訳せないフィンランド語のひとつではありますが、かなり分かりやすく表現すると「根性、忍耐」になります。

このSISUに関してはエラマライターズが記事を何本か書いていますのでよければそちらもご覧ください。

フィンランド魂「SISU」を理解して取り入れようー「フィンランドの幸せメソッドSISU」を読んで

自分にも他人にもやさしく。「EVERYDAY SISU フィンランドの幸せ習慣」 レビュー

フィンランドの「大和魂」を見た!映画「SISU/シス 不死身の男」が教えてくれる

フィンランドの人は暗くて長い冬を、時が過ぎるのを待つしかない状況を毎年体験していることで、つらいことがあっても一旦受け止める、自分の中で答えが出るまで待つといった習慣があるのではないかという気がしていました。

富裕層であればその時期イタリアやスペインなどの南ヨーロッパに行く人も多いのですが、それができる人ばかりではありません。

家の中でも楽しめるようなことを考え、ボードゲームが流行ったりテレビゲームが流行ったりします。また、黙々と編み物をしたり美味しいコーヒーを入れたりと、自分ができることをして淡々とステイホームするのです。

耐えて乗り越えるという経験を常にしていると言えます。

そういう生活をしていると小さなことで幸せを感じます。フィンランドの人々が素晴らしいからというのはもちろんゼロではないですが、やはり環境からの影響は大きいでしょう。

気晴らしするものが本当に少ないので、晴れていること、あるいはキノコが生えているといったことなど、ちょっとした変化に気づいたときに幸せを感じやすいのだと思います。

禅的な感覚を潜在的に持っているのではという話もフィンランドの友人たちとよくします。

家に帰ったらご飯を支度して読書してコーヒーを飲んで、という淡々としているかもしれない生活も、フィンランドの人にとってみれば普通の暮らしなんです。

日本では、シンプルな生活に飽きる人は一定数はいるのではと思います。そうなると旅行に行こうとか引っ越そうとかを考えがちですが、フィンランドの人はそれがかなり少ないのです。

日本では新年度は桜の季節で明るい印象があります。しかしフィンランドの学校の新年度は、秋口になり晴れる日が少なくなってくる8月下旬なので、曇天を見ると新しい学期が始まる季節が来たなと感じるのだそうです。

そういった話からもフィンランドは暗さと密接な国なんだと感じます。

「SISUツアー」開催します!

SISUにはもうひとつ「勇気を持つ」という意味があるのではと思っています。

それは大きなことでなくても「ちょっとしたことだけど自分にとっては大きな意味をもつ勇気」ということです。

2023年8月にひさびさのフィンランドツアーを開催しました。そのときの経験や帰国後に子どもも大人も小さな一歩を踏み出したり変化を感じたりした話を参加者からうかがい、新たなツアー企画を考えました。

時期は2025年の3月なのでかなり先ですが、SISUを体験するツアーが開催されることを頭の片隅に置いておいていただけるとうれしいです。

詳細が決まりましたらHPや各種SNSでもお知らせしますのでぜひフォローしてくださいね。
今後のエラマプロジェクトにもどうぞご期待ください!

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)

定期的にお問い合わせがありました、エラマプロジェクト代表/フィンランド生涯教育研究家の石原侑美の講演依頼と登壇実績についてまとめたページを作成しました。

石原侑美のプロフィールもPDFにまとめました。

教育機関、自治体、企業、団体のご担当者様は下記のWebページをご覧いただき、お問い合わせフォームよりご依頼・ご相談ください。

石原侑美 講演依頼・登壇実績について

こんにちは、エラマプロジェクト代表の石原侑美です。

「あなたのやりたいことは何ですか?」

この質問を向けられると、途端に答えがわからなくなるのは私だけでしょうか?

大学生の頃、就活セミナーでよくこの質問を投げかけられることがありました。当時は、「アナウンサーになることです」「旅行が好きなので、旅行関係や航空業界を目指しています」なんて月並みの答えを返していたけど、心の奥底で「なんてつまらない答えなんだろう」と自分に落胆しながら就職活動に励んでいました。

その「つまらない」の正体は、経営者になった今となってはわかります。もちろんアナウンサーや旅行業界の仕事がつまらないということではなく、「アナウンサーになること」「旅行や航空業界で仕事をすること」が本当に自分のやりたい「こと」ではなかったということです。

この記事では、「やりたいことを仕事にしたい!」ということについて、ひとり社長を10年続けてきた私の目線で深掘りしたいと思います。

やりたいことに急ブレーキがかかったとき

「あなたのやりたいことを自由にやればいいのよ」と、子どもの頃によく母から言われました。子どもを信頼している母なりの優しい言葉でもあるのですが、その言葉だけを突きつけられた私は、やりたい「こと」を一生懸命探しました。

その当時は、今のように立ち止まって「自分のやりたいこととは何なのか?」と真剣に考えることもなく、ただ素直に「やりたいことを探そう!」と自分の好きなもの・ことに目を向けていました。

中学生の私は、始発の電車で声優さんのイベントに駆けつける熱烈なアニメオタクで、「将来は声優になるんだ!」なんて目をキラキラさせて周りに話していました。

高校に入って声優を目指すために放送部に入ったものの、親に「大卒じゃないといけません」と叩き込まれて、声優になることを断念。それでも、大卒の人が声を使う仕事と言えばアナウンサーだ!と思い立ち、その後の大学進学も、カナダへの英語留学も「アナウンサーになる」という夢のために、日々を送っていました。

まさに、やりたい「こと」のためにまっしぐらな人生。私の学生生活は、その大きな夢のおかげで精神的に充実していました。

さて、いざアナウンサー就職のシーズンに突入!現役のアナウンサーの話を聞く特別講習に参加した時のことです。

関西では知らない人はいない有名なアナウンサーが講師で、受講生は目を輝かせてお行儀よく座っています。受講生のほとんどが女性で白やピンクのスーツを着て、そんなキラキラした華やかな空間の中で突然、

「これ、そこ肘つかない!」

と、アナウンサーの大きな叱責の声が響きました。

その声は、体育会系の顧問の先生のような、幼少期に通っていたバレエ教室の先生のような、人間の動きを止めてしまう大きな声でした。

確かに肘をついていることは、日本社会では講師に対して「失礼」に値する行為かもしれないけど、果たして相手の言動を止めてしまうほど重要なことだったのでしょうか?

そんなモヤモヤした気持ちを持ったまま講習は続いていくのですが、さらに私をモヤモヤさせたのは、そんな怒鳴り声があった後も、ほとんどの受講生がお行儀よく、呼吸の音さえ聞こえないくらい静かに講師の話を聞いている姿です。

その世界では当たり前だとしても、私にとって強烈な違和感、というより拒否感を覚えました。

私はこの世界にいたいのか?と。

上から押さえつけられて、自分の意見を押し黙って、それでもカメラの前で笑顔で、滑舌良くきれいな声で、他の出演者たちと一緒の職場にいられるのか?と。

やりたい「こと」にまっしぐらだった私の心に、急ブレーキがかかったような感じで、当時の私はとてもショックでした。

やりたい「こと」ってそんなに大事なの?

やりたい「こと」が見つかっても、強烈な拒否感を感じてしまったら、私はどうしたらいいの?

そんなモヤモヤを抱えたまま挑んだアナウンサー試験は当然ですが散々な結果でした。生きがいを失ったような感覚に陥り、大学卒業後はしばらくフリーター生活に突入します。

起業する時にやりたいことなんてなかった

1年半のフリーター生活後、大学院に進学しましたが、様々な経緯があって卒業後に起業することになりました。そう、この時にもあの質問を喰らうのです。

「起業して何がやりたいんですか?」

「やりたいことが見つかったから起業するんですよね?」

何度も同じような質問が来ると、「やりたいことがないと起業しちゃいけないのかな?」と自分に嫌気がさしてしまいました。というのも、私が起業したのはやりたいことがあったからではなく、古くから知り合いの人生の先輩から「お金はあげないけど仕事はあげるから、起業しない?」と言われたのがキッカケだったからです。要は、ノリで起業したわけです。

先方からすると、社員として雇わず業務委託契約を結ぶことで人件費を抑えられる。私としても、長い付き合いで構築していた信頼できる関係性から契約を途中で切られることなく、ある程度の失敗は許容しながら育ててもらえるという何とも高待遇の起業だったのです。

そんな経緯から、取り立ててやりたいことがあったわけではなく、「起業家修行」という私の中の位置付けで、がむしゃらに仕事をやりつつ、自分のやりたい「こと」を探していました。

フリーランスやひとり社長という肩書を言うと、「やりたいことをやれてて羨ましいです」と言われることがあるのですが、やっぱり「やりたいこと」と言う言葉に毎度毎度モヤモヤしてしまうのです。

やりたい「こと」が見つかっても、それが嫌いになったらどうするの?やりたい「こと」だったとしても、いい面だって悪い面だってあるのに、何故やりたいこと=良いことの構図になってしまうんだろう?

というか、そもそも起業家はやりたいことをやらなければならないのか?

当時、「起業家修行」中の私は、思考の深みにハマらないように忙しく仕事に打ち込んでいました。そしてごくたまにある休みの日に、東京の一人暮らしの静かな家で、ふと「私は何がしたいんだろう?」「私って何者?」と思考のループにハマり、それが嫌でまた忘れるために仕事して、そして人脈を広げるために飲みに行って・・・の繰り返し。

いわば、「やりたいことができている起業家」のイメージ像に苦しめられ、やりたいことがない故に自分が何者であるかというアイデンティティさえ見失っていたのです。

自分が何者かわからない状況で、他人に私ができることを話しても、「私が引き受ける必要があるのか?」と思うような専門外だけど単価の安い仕事だったり、反対に「え?私でいいんですか?」というような荷が重い仕事だったり、色んな意味で私にとって不釣り合いな仕事を引き受けていました。

「起業家修行中だから」というおまじないは、この時すでに私には効果がなく、逆に心と体のエネルギーをすり減らしてしまう結果となってしまいました。

やりたいかどうかじゃなく、私にピッタリ!を見つける

そんな心と体も限界に達した私に待っていたのは、フィンランドに1週間行くという願ってもない機会でした。

それまで日本で忙しく働いていた私は、1週間以上も仕事から離れてヨーロッパに行くことは仕事が減りそうで勇気が必要でしたが、これもいい機会!と捉え、フィンランドに加えてロシアとオランダを訪問する3週間の期間を取りました。

フィンランドで待っていたのは、想像していた「陽気な明るい外国人」ではなく、「人見知りで物静かな日本人に似ている人たち」でした。そう、このフィンランドの人たちとの出会いが私のフィンランド生涯教育研究家として活動するキッカケだったのです。

「この人たちの穏やかで自分を大切にする文化や習慣を日本でも伝えたい」という気持ちもゼロではありませんが、私の気持ちの根底には「こんなに面白いフィンランドの人たちと関わりたい!」「フィンランドに何度も足を運べる機会を作りたい!」そんな自分中心の視点と気持ちが大きく占めていました。

その後ロシアやオランダに行ったことで、よりフィンランドの人たちの物静かで平穏を何よりも大切にする特殊性を感じ、ますますフィンランドが私にピッタリ!という感覚になるのです。

それは単純に、好きなフィンランドに触れられるという気持ちというよりは、フィンランドと関わり続けたいという「覚悟」に近いかもしれません。

「やりたいかどうか」より、「関わり続けたいという覚悟」を持つ方が、私のやりたい「こと」を見つける方法としては最適だったんだと思うのです。

つまり、「フィンランドの文化を伝えたい」というやりたい「こと」を見つけるのではなく、何度も訪れたい場所、関わりたい人たち、自分に合う世界観、これらを見つけることのほうが大事だったのです。

居酒屋での大人たちの愚痴に耳を傾けると、人と関わることのストレスや悪口が大半です。心理学者のアドラーも「すべての悩みは対人関係の悩みである」と述べています。となると、もはや、やりたい「こと」を探すのはどうでもよくて、どんな人と関わりたいか、その人と関わるためにはどんな場所にいたいか、そっちを探すほうがストレスフリーで穏やかな人生を送れるのではないでしょうか。

エラマプロジェクトで開催しているツアーやイベントには、今回私がお話したような苦い経験が下地になっているものがたくさんあります。

やりたいことを仕事にしたいけど、自分のやりたいことって何だろう?とモヤモヤしている方へ。まずは、自分にとってピッタリくる人や場所を探すことから始めてみませんか?

エラマプロジェクトがその一助になればとても嬉しいです。

★2023年7月16日開催「フィンランドのライフスタイル体験プログラム in 岐阜・飛騨高山」

会員制コミュニティ「エラマの森」で、オンラインで豊かに暮らすことを考え、学び、実証実験しています。

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)