こんにちは。エラマプロジェクト代表、フィンランド生涯教育研究家の石原侑美です。
エラマプロジェクトでも「対話」はとても大切な要素なのですが、みなさんは「対話」にどんなイメージを持っていらっしゃいますか?
わたしはフィンランドの文化研究の中で対話が身近になったので、「平和的な手段」という認識です。
ただ、これまでいろんな方の話を聞いた中で、「対話」と聞くとわざわざ感や緊張感を伴うものという印象を持っている方、恐怖感まであるという方など、ネガティブなイメージを持つ人も多くおられました。
期待値が高いほどガッカリする気持ちも大きくなるのだと思います。
そのような体験をすると「対話」と聞いたとき身構えるようになりますよね。
ではあなたにとって心地よい「対話的な場」とはどういったものになるでしょう?
勇気が出なかった5年間
エラマプロジェクトの身近な実践として「哲学バー」をオンラインで毎月開催してきました。このバーのポイントは「答えを出さない、まとめない」です。
チーフバーテンダーは「よむエラマ」編集長のいけかよさん。わたしはバーのオーナーとして参加者のみなさんといろんなテーマについて考え、語り合ってきました。
もう5年になります。
哲学バーを始めた頃から対話的なものをエラマプロジェクトで扱う構想はありましたが、対話に関するネガティブなイメージの話を聞く機会もあったり、対話を専門的に扱う人がいる中で自分が大々的なプログラムを作る勇気が出なかったりと、なかなか実現できずにいました。
ひとつの転機になったのは、昨年開催されたオープンダイアローグ研修に参加したことです。講師はオープンダイアローグを生み出したフィンランド人のトム・アーンキル氏で、フィンランドの対話文化のエッセンスが凝縮された2日間でした。
その研修の主催者の方が話されていたこともとても印象的でした。
「対話はメソッドではないし、何か方法や手法を使ってやるものでもない」
「講師のトムの持っている空気感に触れてほしかったからこの研修を作った」
「オープンダイアローグの研修をトム・アーンキルから受けたからといって、一足飛びにできるものではないことを分かってもらいたかった」
このようなことをおっしゃっていたんです。
トムの話を聞く中でもわたしがこれまでフィンランドで感じていた「対話そのものはメソッドではない」ということが共通認識としてあるんだと分かり、わたしの新たなチャレンジの大きなきっかけになったのです。
対話をするのは人とだけ?
そしてわたしは、オープンダイアローグ研修での学び、哲学バーでの実践やフィンランドの教育を研究する中で溜まってきた事例なども踏まえた「対話的な場の作り方」のプログラムの具体化をついに決めました。
あなたが誰かと言葉を交わしているとき、「この人、Aと言ってるけど、本当はBが答えなんじゃないか」「この人の言葉では肯定的に言ってるようで、実は拒否しているよね」といったことを感じた経験はありませんか?
こんなふうに、言葉として表れていないものから、この人は本当は何が言いたいのかと汲み取る力も扱いたいテーマのひとつでした。
「対話」というと話す、話を聞くといったように、誰かが話していることがベースになります。プログラムでもそれが中心にはなりますが、言葉がない世界でも対話があるというワークもあるんです。
そのワークの担当として植物のプロの方に来ていただくのですが、その方は毎日、花と対話して商品として出荷できるかどうか判断している、とおっしゃっていました。
例えば、ひまわりを出荷するとして、咲いているのがベストとは限らず、太陽の加減や成長してる度合いなど、目の前のひまわりの花一輪一輪が今どういう状態でどうなっているかを感じるのだそうです。
今までのノウハウや一般的に言われているような知識の前提はあれど、花と自分との関係性の中で、毎日見ているその人にしか気づけない何かを受け取って、花を出荷していくのが必要なのだそうです。
こういった言葉を介さない関係性であっても、毎日の様子や周りの環境などから言葉のない対話を体感するようなワークもおこないます。
今回のプログラムでは食事にも力を入れているのですが、食べるだけではなく食事の盛り付けにおいても対話のワークがあるんですよ。
「対話」と聞くとつい人対人と思いがちですが、人以外の場面でも対話は存在していますし、重要でもあるんです。
対話的な場にとって重要な要素とは
ヘルシンキで会議室を利用すると、日本人が思うような「ただの会議室」はあまりありません。日本でも観葉植物を置いているところなどはありますが、壁は白一色で机と椅子があるだけ、という場所が多くありませんか?
フィンランドは会議室にもアート作品があったりします。そんなに高いものではなくても、ああいう感性はすごく大事だなと常々感じています。
心地良さやリラックスのためには環境を整えることも重要です。
バイオフィリック(人間の自然への愛着を意識した、自然要素を取り入れた空間デザイン)なものを置く、自然からインスピレーションを得たデザインのテーブルクロスを掛ける、コーヒーを飲む、ただの会議室であっても植物を置く……。
これらのことをやるだけで、リラックス効果があったり生真面目な思考になったりしないという研究結果もあるくらいなんです。
よって、フィンランドではバイオフィリックなものを意識して置くことがよくあります。そうすることでリラックス効果はもちろん、その結果いわゆる“オフレコ”が出やすいのだとか…!
「ちなみに」といった話をすることも増え、リラックスムードで満足度も上がりやすい。こういった要素も伝えていきたいと思っているのです。
その名も「対話的な場の作り方合宿 in 飛騨高山」!
合宿と聞くと体育会系なイメージになるでしょうか。でも、心地良さやリラックスが重要なのでそこは安心してください。
また、対話について何も知識がないと思っていらっしゃる方でも遠慮なくぜひご参加いただきたいのです。
そして「対話」と聞いて構えないでほしいなと思っています。
このプログラムは2025年7月18日(金)〜7月21日(祝)の3泊4日で開催します! 場所はリトリート施設である「太陽の家」です。
いけかよさんはインタビューライターでもあります。今回は話を聞くトレーニングの講師として合宿に参加します。
2人で哲学バーを始めて、5年間やってみて分かったことがたくさんあります。ルールとしてみんなが共通で守らなければいけないこと、逆にゆるめた方がいいこと。
ノウハウだけではなく、自分の持っている人間性をどこまで出すかとか、ファシリテーション技術にしても一般的に言われているファシリテーションだけではなく、例えば自分のキャラクターを殺すとか、自分の意見を言わないとか。
でもいけかよさんと「それだけでは対話的な場は実は生まれない」という話をしていく中で、エラマプロジェクトとしてオリジナルのものが作れる!という確信が持てました。そしてやっと完成したのがこのプログラムなんです。
詳細をぜひチェックしてみてください!
対話には、真剣なモードで相手の話を聞かなければいけないというような、ある種の我慢をしないとできない、といったイメージがあるかもしれません。
でも、わたしが目指したい究極のあり方は、「よくわからないけどどうでもいいことで笑い合っている」状態。それぐらいリラックスしているとか、言葉さえ交わしていない、ただ心地いいだけを享受している状態、そういう場です。
今回のプログラムがそのベースとなれたらうれしいです。
今年の夏、自分と人とあらゆるものと、じっくり向き合う時間をとってみませんか?
By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)