こんにちは。Kangasこと、ライフコーチの和田直子です。これを書いている10月中旬、ようやく私の大好きな秋がやってきたなあと感じるこの頃です。朝晩は少し冷え込み澄んだ空気を感じるようになってきたものの、日中の日差しはまだ強く、半袖で過ごすこともできるあたたかい秋。9月上旬に旅したフィンランドの気候のよう。いつもなら暖炉に火を点ける時期だと聞くのに、「もっと半袖を持ってくればよかった」と思うほどでした。
そう。私はこの9月、エラマプロジェクトのフィンランド現地スタディープログラム「フィンランドのサスティナブルな社会とウェルビーイングの暮らしを学ぶプログラム」に中学生の娘と参加してきました。
フィンランド現地スタディプログラム(ツアー)|Elämäプロジェクト (elama.be)
今回はその旅で感じたことを、じっくり思い出しながら書いてみようと思います。どうぞお付き合いください。
フィンランドの何に惹かれているのか?
実は昨年も私はエラマプロジェクトのフィンランドツアーに参加しました。そこで自分の心の声と向き合えたことが大きなきっかけとなり、今年の春に長年働いていた会社を退職し、個人でライフコーチとして仕事を始めました。その経緯はこちらにも綴っています。
はじめまして、Kangasです。会社員を辞めてライフコーチとして歩みだした私の「これまで」と「これから」|よむエラマ Produced by Elämäプロジェクト (note.com)
昨年の旅がきっかけで、これからは自分の心地の良い生き方をしていこうと思うようになりましたが、私はフィンランドの何に惹かれているのか?ということが分からずにいました。
フィンランドの人や社会の豊かさに対し、憧れや羨ましさのような感覚を持ってしまうのは何故だろう?という自分に対する疑問もありました。日本にいても、絶対「豊かさ」があるはずなのに。どうしても、フィンランドの方が日本よりも、人や社会が豊かだと感じてしまう。私はフィンランドで感じる豊かさの、一体何に対して惹かれているのだろう?
そんな言葉にできない幸福感を再び感じたくて、そして娘ともこの感覚を共有したいと思い、今年のプログラムに参加をしてきました。
コミュニケーションが人や社会のあり方をつくる
今まで私が言葉にできなかったフィンランドへの憧れや羨ましさ。今回の旅でもやはり、その感覚が私の内側から湧き上がってきました。今回こそは、それを言葉にしてみよう。そして、私にとっての豊かさとは何かを明らかにしたい。今、そう思いながらこれを書いています。
まず、今回の旅で最も感動を覚えた場所、それが“Restaurant & Bar Nolla”です。フィンランドで唯一成功しているといわれるゼロ・ウェイスト(ゴミを出さない)レストランで、その名前“Nolla”はフィンランド語でゼロを意味します。
レストランで案内された私たちのテーブルは、なんと厨房の中。シェフたちの手元や動きが間近で見られ、料理中の熱気や活気が直に伝わるライブ感たっぷりの食事体験をしました。そこでは、ゴミを出さない工夫やセンスあふれるアイディアが、お料理や空間の隅々にまで感じられました。そのクリエイティビティが、お店全体の世界観を生み出し、私にとっては忘れられない感動体験となりました。
実は私は以前、大手カフェチェーンのマネージャーをしており、「ゼロ・ウェイストストアを作りたい!」という信念を持って会社に提案をした経験があります。大規模なチェーンだからこそ、それが実現すれば社会にとてもポジティブな影響を与えられるはずと意気込んでいました。しかし、賛同し共に動いてくれる仲間がいる一方で、大きな組織ゆえに慎重派も多く、その影響力のある慎重派とのコミュニケーションを続けることをいつの間にか諦めていました。そして、私のゼロ・ウェイストストアを実現する夢の炎も少しずつ小さくなっていきました。
そんな経験があったからこそ、私はNollaがなぜ成功しているのかを知りたいと思ったのです。あるスタッフが「このお店を始める時、『失敗してもいいから、とにかくやってみよう』という気持ちで、私たちも街の人々も取り組みました」と語ってくれました。この言葉は、前職で私が抱いた野望に対して諦めてしまったコミュニケーションのことを思い出させてくれました。どれだけ豊かな思いを描いていても、困難を乗り越えるためのコミュニケーションを諦めてしまうことで、自分自身の可能性に制限をかけていたのだと思います。
さらに、コミュニケーションを放棄することは、社会全体の豊かさに広がりをもたらすチャンスを逃すことにもつながるのかもしれません。
Nollaでの体験は、単にゴミをゼロにするためのコミュニケーションではなく、ゼロを目指す過程で生まれるアイデアや挑戦を楽しむためのコミュニケーションでした。私たちお客もNollaの世界観や価値観に触れることで、そこにある想いを共有し、共にその時間を心から楽しんでいました。きっと、Nollaには「失敗してもいい、とにかくやってみよう」と背中を押す力のあるコミュニケーションがあったのだと思います。
コミュニケーションが人や社会のあり方を形作っているのだろうか。私が感じる豊かさとは、コミュニケーションに影響しているものかもしれない。Nollaでの体験を振り返っていると、そんなことに気付き始めました。
コミュニケーションが生まれる場所
その視点で去年と今年の旅を振り返ると、さまざまな場面でコミュニケーションが生まれる工夫があったことを思い出します。
まず学校では、先生が生徒一人ひとりに寄り添い、安心して授業や学校生活に参加できる環境が整っていました。静かに過ごしたい時や、少人数で話し合いながら学びたい時、それぞれのニーズに応じて取り組めるスペースも用意されています。また、先生同士が交流できるリビングのような職員室も印象的でした。
次に図書館。フィンランドの図書館は本を借りたり勉強をしたりするだけでなく、楽器の練習やミシンの使用もできる、まるで公民館のような場所です。キッズスペースにはベビーカーが並び、ママたちは離乳食をあげながらおしゃべりを楽しみ、パパたちは赤ちゃんを抱っこしながら立ち話をしていました。
さらに、娘とヘルシンキの街を歩いていて見つけた自転車と歩行者専用の道路も印象的でした。かつて港からの貨物輸送に使われていた線路を活用した道で、平日の夕方には仕事帰りに颯爽と走る人や、友人と会話を弾ませながら運動する人たちが見られました。
愛犬と気軽に乗車できる電車でさえ、飼い主と犬が自然にコミュニケーションを楽しむ場所になっているように感じます。
こうしたフィンランドらしい光景に触れると、人が集まり、つながりが生まれる場所に私は豊かさを実感していました。誰かと心地よい会話を楽しむことも、ただそうした場に身を置くだけでもよい。私が憧れを感じるのは、こうした場所が街の風景に溶け込み、人と人との心地よいつながりを生んでいることだと分かりました。
そうそう、サウナもその一つでした。娘と毎晩のように通ったサウナでは、初対面の人たちとも自然にコミュニケーションが生まれました。「ロウリュウしてもいい?」という声かけから始まる会話もありました。
ある晩、一緒に居合わせたフィンランド人の女性が、先に出る際にわざわざ私たちのためにバケツに水を汲んで「Enjoy!」と言ってくれました。その優しさに、私たちも思わず「Kiitos!(ありがとう!)」と返していました。
一方、コミュニケーションが私たちのあり方に欠かせないからこそ、時にはそれから距離を置きたくなることもあります。
自分のあり方を表現したり、他者のあり方を理解するために、コミュニケーションは不可欠なもので、そして、その積み重ねが社会のあり方を形づくっていくのだと、今の私は感じています。
しかし、置かれた環境や相手との価値観の違いが原因で、コミュニケーションを取ることが苦しくなることもあります。以前の職場で、コミュニケーションを諦めてしまった経験がまさにそのような状況でした。
人が集まり、つながりが生まれる場所に豊かさを感じると分かった今、たとえコミュニケーションから遠ざかりたくなる時があっても、そのような場所にただ身を置くだけで、心が癒されたり落ち着いたりするのではないかと思います。振り返ってみると、私は常に人とのつながりや、それが生まれる空間からエネルギーを得てきました。みなさんは、どうでしょうか?
自分のための1時間
「自分のための1時間をつくろう」
これは、ヘルシンキ郊外の街カラサタマのスローガンです。仕事や家庭の責任から離れて、自分に投資する時間を持つことを提案するこの言葉は、フィンランド人らしい考え方を表していると思いませんか?カラサタマは「スマートシティー」として知られ、デジタル技術を活用してインフラや施設を最適化し、市民と環境の両方にとって快適で心地よい街づくりを進めています。
この旅を経て、私が意識するようになったのは「自分のための1時間」という考え方でした。たとえば、日課として続けてきた愛犬の散歩や、早朝のジャーナリングなどを「自分のための時間」としてより大切に捉えるようになりました。こうして毎日1時間以上を、自分との対話や、心と体の調子を感じるための時間として使っています。
また、心地よいコミュニケーションが生まれる場所へ足を運ぶことも大切にしています。家族や友人と過ごす時間や、人の気配を感じるカフェでのひとり時間も、私にとってはポジティブな気持ちやアイデアが生まれる大切な時間です。
私にとっての豊かさを言葉にしたら
私にとっては、人と人がつながる場所でそれぞれの価値観が尊重され、心地よい距離感の中に身を置くことで、自分の幸福度が高まります。だからこそ、私は心地の良いコミュニケーションを生みだそうとするフィンランドの人々のあり方と、それを支える社会のあり方に惹かれるのだと理解できたのです。
フィンランドを旅して、そして、この記事を通して言葉にできた、私にとっての豊かさ。それが分かった安心感を今感じています。
皆さんも自分にとっての豊かさは何か、ぜひ言葉にしてみてください。誰と、どんな場所で、どのように過ごし、どんな気持ちでいると、あなたは心が満たされますか?
Text by Kangas(和田直子/強くしなやかで優しい社会を織りなすライフコーチ)