Elämäプロジェクト

【よむエラマ】あなたの正解はどこにある? それはAI時代だから、ではない話

こんにちは。エラマプロジェクト代表、フィンランド生涯教育研究家の石原侑美です。

春分の日を迎えようやく春の訪れを感じるようになりましたが、わたしにとって今回の冬は例年になく厳しい季節でした。

普段から仕事は自宅でおこなうことが多い上、外出もほとんどしない状況でした。そんな過ごし方をする中で感じたことや気づいたことをみなさんに共有できればと思います。

引きこもり生活でAIを多用

わたしは岐阜県高山市に住んでいるのですが、今年の冬は本当に寒くて外に出られませんでした。1月には風邪をひき、かなり長引いて声が出なくなったことも……。そのうえ日照不足と大きな仕事を終えた反動が重なったのか、精神的にもけっこう落ち込んでしまいました。

(3月現在、春の陽気も相まってすっかり元気になっているので、ご心配なく!)

家にこもって仕事をしている中で、これまで以上にAIを使って仕事をするようになりました。もともと新しいツールが出るとさわってみるのが楽しく、おもちゃのように試してみるタイプなんです。

AIを使うとやはり作業のスピードは速くなりますよね。例えば、ある作業ではこれまでおそらく1時間くらいかかっていたものが15分でできるようになったり、英語の翻訳も伴う資料作成では2日間ほど必要だった作業時間が20分でできるようになったりと効率面では非常に助けになる存在です。

わたしは経営者ではありますがフリーランス的な一人社長のため、会社の切り盛りにおいてはどうしても効率化を図らざるを得ない場面が多々あります。その意味でAIの存在は大きいです。しかし、冬のおこもり生活でAIをこれまで以上に使ってみた結果、怖さも感じてしまいました。

AIは便利! だけれども……

すでにご存知の方も多いと思いますが、AIが嘘をつく現象もあります。エラーの一種ではあるらしいのですが、回答を出すスピード感の弊害によるものだったり、インターネット上のソースから判断しきれなかった場合には筋が通るように盛っちゃったりもするようです。つまり一部は事実とは違う回答の可能性もあるんですよね。

わたしはフィンランドに関する研究をしているので関連内容であれば気づけますが、フィンランドを知らない人の場合は事実かどうかの判断が難しいのでAIが出した回答を鵜呑みにすることは多いのではないかと思います。

そして自分が専門外のことに関しては、わたしも同じような状況になる可能性が高いのです。

先日、WebサイトのプログラミングのコードをAIに書いてもらったことがあったんですが、わたしはこの分野については素人なので、疑ったり修正したりはその場ではできないんですよね。実際、得られた回答でWebサイトにしてみると見た目がすごく崩れていたり、全然意図しないものになっていたりするんです。

だからやはり自分の中である程度知識があるとか、自分の中で選択するための軸を持っているというのは大事なポイントになってきますよね。

そしてAIが答えたそのままをコピー&ペーストすることが多くなると、自分の意思、意図、意識といったもの、もっと言えば自分のアイデンティティさえも失いそうな感覚になっていったんです。

心と体はこの世に存在はしているけれど、自分の存在意義や意味を失うような感覚です。

この原因はいろいろあると思うのですが、ひとつはAIのアウトプットがあまりにも知能指数が高くて、世の中の平均点のようなクオリティのものを出してくれるからだという気がします。すごく綺麗だし完璧に近いものも多いんですよね。

しかも自分で考えるより圧倒的にスピードが速い。

そのスピード感で世の中の正解のような内容が出てくるからある種の気持ち良さもあり、さらにあたかも自分が書いたような心地良さも伴うのではないかと思います。

実際は、効率の面からAIの回答をそのまま採用した場合、文章を読み返すと、自分にとってしっくりこなかったり、「これAIで書かれてるよね?」と言われるようなものになっていたりするのではないかと思います。

わたしの場合、AIの使用頻度が高くなったことで、今まで以上にタスクをこなすのが速くなりました。そしてわたしは自分で仕事を作り出す立場なので、そうなるとさらに仕事が生まれていき、数か月前とは段違いの仕事量になっています。その結果、プロジェクトがいっぱい進みすぎて今パンク寸前なんです……(苦笑)。

そうなると頭がなかなか回らなくなって、自分の意思や意図が出にくい、と感じることも。

こういった体験を通してふと頭に浮かんだことがありました。

AIのスピード感やクオリティの高さを何も疑わずただ使い続けることで、自分そのものがなくなってしまうような感覚に陥るという話は、AI利用に限ったことでないのです。

自分の意思を持たず「みんなの正解」を求めてしまう姿勢でも、実は同じ症状が起きてしまうのではないでしょうか。

なぜか自分だけの正解を持てない

これまで企業研修の仕事を担当したことが何度もあるのですが、毎回印象的なことがありました。上司の前だと自分の意見を言うのが憚られるという方が多かったり、上司がいない場合でも、講師が「こう言ってほしいんだろうな」という正解を答えようとする人たちがけっこういたり。自分の中の正解を持てない方が非常に多いんだと感じました。

さらに衝撃的だったのは、企業研修を希望された担当者との事前打ち合わせで、「おそらくたったひとつの正解を求めたくなると思うので、その方向性でお願いします」とオーダーされたときです。

わたしが講師をする場合、「たったひとつの正解は存在しないので、みなさんがイメージするものをみなさんなりにシェアしてください。正解を出す必要性はありません」という前提をまず共有します。そうしないとそもそも意見が出ないからです。

さすがに「さまざまな意見があるという前提でないと進まないので」と理解を求めました。

しかし、その研修のフィードバックで「答えがない中で問いに答えるのはすごく難しかった」という感想があったのです。

わたしとしては「えっ! そうなの!?」と驚くことになりました。自分の意見を言わないのが習慣になっているんだなと、研修後にも衝撃を受けたのです。

もしかしたら多くの場でこんな状況が当たり前になっているのかもしれないと思ったのが、今でも強く印象に残っています。

周りや世間からの「こうするべき」という押し付けが空気のように存在しているからなのか?もしくは自分自身が「世間はこうだから」と思ってしまっているだけなのか?どちらもあるのでしょう。

経営コンサルティングにおいても、社長さんが「従業員がアイデアや意見を出してくれない」と嘆く場面をたくさん見ました。みんなの正解を出そうとしすぎて、自分の正解がない世界にたくさんの人がいるんだろうなと、そのときも強く感じました。

ここでふと思い出すのが、フィンランドの教育現場のことです。

フィンランドでは、小さな頃から「あなたはどう思う?」と問いかけられる場面がとても多い。授業でも、先生がひとつの正解を教えるのではなく、子どもたち自身が考え、言葉にし、友だちの意見と擦り合わせるプロセスを大切にしています。

大事なのは、最初から立派な意見を言えることではないということ。「自分はこう感じた」「自分はこう考える」という小さな声を出す練習を、日常の中で何度も繰り返していくこと。それが主体性の土台になっていくのだと、フィンランドの教育を研究する中で何度も目の当たりにしてきました。

翻って日本では、その練習の機会自体がとても少ないように感じます。だからこそ「自分の正解がない」のは、文化や能力の問題ではなく、単にトレーニングの機会がなかっただけなのだと思うのです。

自分の答えを出すトレーニング

わたしが言いたいことはなにか? 

つまり、自分の中の正解や意思を持つ必要性は、AIが発達した今だからの話ではないということです。

自分の答えを出すトレーニングと言うとハードに聞こえるかもしれません。でも、自分を知り、自分を満たすものは何か、自分が意思を持つとはどういうことなのか、そういった土台がとても大事だと思うんです。

それは「自己優先する」ということです。これは日本人も個人主義になってきたとかそういう話ではありません。

仏教の自利利他という考え方にもあるように、「まず自分を満たす」は決して悪いことではないのです。「わたし」の豊かで幸せな生き方を描く場をつくりたい——そんな思いでエラマプロジェクトを誕生させ、フィンランドに根づく「自分の人生を自分で描く」という文化や習慣を日本にも広めるため、活動を続けてきました。

AIを利用する場面であれば、出てきた回答をちょっと時間をかけて吟味してみると、スピード感に流されて自分を失うような感覚からは離れられる気がします。

同じように、人とのやりとりにおいても自分の声を聴く時間をちゃんと確保することを意識してみるのがいいと思うんです。

例えば、メッセージのやりとりでどう返信しようか考える時間を持つように、リアルの会話においても相手のペースに乗せられたスピードで反応するのではなく、一呼吸置いてアウトプットしてみる。そういう小さな積み重ねも自分自身を、そして自分の考えを大切にする一歩になるはずです。

あなたには「主体性」がありますか?

「主体性」は、今回の記事でわたしが伝えたいテーマ。子どもであろうと、大人であろうと、主体性を身に着けていかなければ、予測不可能な現代においてあまりにも無防備だと思うのです。

そして先ほどお話ししたフィンランドの教育現場には、その「主体性」を育てるヒントがたくさん詰まっています。

エラマプロジェクトでは2026年3月25日(水)の夜に「未来を創る『主体性』の育て方」というテーマでオンライン講座を開催します。

当日は、フィンランドから教育のエキスパートであるTuovi Ronkainen(トゥオヴィ・ロンカイネン)氏をゲストにお迎えします!
彼女はフィンランドの教育現場と行政、その両面から「主体性(Agency)」を追求し続ける教育分野の第一人者。

もしついつい周りの正解を求めがちであったり、自分の中に軸がないと感じていたりすることがあれば、この講座で一緒に「主体性」について考えてみませんか?
Tuoviさんは英語でお話されますが、石原が通訳と解説をおこないますのでご心配なく!

詳細はこちらからご覧いただけます。

今回都合が合わない方も、エラマプロジェクトのSNSで情報を発信していますのでぜひチェックしてくださいね。

周囲のいろいろな声やAIの回答がすごいスピードで流れてくる現代。そのスピードのなかで、エラマプロジェクトが少しでもあなたが自分の声に耳を傾けるヒントをお伝えできていたら嬉しいです。

By 石原侑美(エラマプロジェクト代表)
Interview & Text by nakagawa momo(フリーライター)

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